2015年08月24日
【新穂高から日本海へ】 6日目 日本アルプス横断の旅
8月13日 風雨
バラバラバラバラ・・・
深夜、何かが叩きつける音で目が覚めました。
一瞬頭の中に「?」が浮かびましたがすぐにそれが雨音だと気付き、起き上がりました。
通り雨かな・・・
と思いたかったです。
しばらくウトウトしていたのですが、雨、風共に強くなり、テントが揺さぶられてさらに激しく雨が叩きつけてきます。
この雨の量はまずいな・・・
あえて砂地にテントを張ってしまったので、水溜りが出来たら浸水してしまうかも。
心配してそっと入口をあけて見ます。
すると、外に土間を作った事や風上側に置石で囲いをしていた事により、超浸透性の砂地の路面はフライシートの内側、テント部分だけサラサラに乾いていました。
良かった、浸水の心配はまったく無いです。
暇つぶしに石組みしておいて良かった。
ふと時計を見るとAM1:00
入口を閉めて横になりますが、色々な事を考えて眠れませんでした。
昨日の天気予報と大分違うじゃないか~。
完璧な計画が崩されていく・・・
通り雨でありますように。
雨が止みますように。。。
AM2時ごろ、少し雨が弱まったので、そのまま止んでしまう事を期待しました。
外に出てトイレに行き、テントに戻りました。
そのままお湯を沸かしてコーヒーを飲み、朝食の準備をし始めた頃・・・
再び雨が降り始めました。
しかも結構強い・・・
こりゃダメだな。
一応3時発の予定でいたので、息子を起こして出発の準備をします。
合羽も着込んでテント以外のものは全てザックに収納。
ザックカバーもかけていつでも外に出られるようにしたのですが、3時を回っても雨は止みません。
仕方が無いので横になったまま機会をうかがいました。
周りのテントからも「コレはダメだな~」と言う声が聞こえてきました。
待っている間に息子も再び眠りに入ったので、起こす事もしませんでした。
再びシェラフとマットを一つだけ出し、息子の下に敷いてシェラフをかけました。
待つこと1時間半、ヘッデンも要らないくらい明るくなった4:30頃。
急に雨が止みました。
これはテント撤収のチャンスです。
息子に声をかけます。
「行こう、チャンスだ。」
シェラフとマットを仕舞って、慌ててテントの外に出ます。
瞬間靴を履いたらそのまま手際よくパタパタとテントを収納。
息子も慣れてきているので、何も言わなくても手順どおりに手伝ってくれます。
バタバタ私達が動き出した音で周りのテントからもモソモソと人が出てきて、撤収の準備にかかりはじめました。
しかし私達はパッキングもほぼ出来ているので、さっとテントを仕舞ってほぼ一番にテン場を後にしました。
AM4:50、出発です。
雨は止んでいるので、ガスの中ですがザラ峠までは快適に歩けました。
息子も朝から動いたおかげか、元気におしゃべりが止まりません。
ちゃっちゃと歩いて5:20ザラ峠まで降りてきました。
かつて佐々成正が徳川家に助けを求めて冬に抜けた峠。
歴史を感じます。
そして観測隊が暴風雨にやられた場所ですね。
もちろんこの時は知りませんでしたが。
さてここから一気に獅子岳まで300mほど高度を上げます。
今はガスで見えませんが、昨日双眼鏡で見てなんとなく道がどうなってるかは想像がついています。
登りに強い息子、行きましょう!
しかし登り始めてすぐに、時折強い風に雨が混じるようになって来ました。
やはり先ほどテントを撤収して正解でしたね。
タイミングを誤ると出発できませんでした。
歩いている分には合羽のおかげで雨には耐えられます。
そして、想像通りのザレた急登はなかなかに私達の進行を阻むのですが、もうこんな急登は慣れました。
負けるもんか!
しかし吹き付ける風に雨も混じり、体は冷えていきます。
体力が持ってかれる・・・
息子もさっきまでのおしゃべりはパタリと止まり、黙々と歩き続けています。
辛いんだろうな・・・
やがて登山道の右側に沢状の崩落地が見えてきました。
昨日遠くから見た地形が頭によぎります。
結構高度を上げましたね、間もなく梯子が出るはずです。
と思ったらすぐに梯子です。
滑ると危ないので、先に息子を登らせます。
梯子を登ってしばらくすると、稜線の東側に登山道が回りこみました。
あぁ、急登が終わったんだなとすぐに分かりました。
風下側に回ったことにより強い風は当たらなくなり、急に体温が上がり始めます。
合羽の一部を開放したりして、中の温度が上がらないように調整します。
もちろん息子にも指示を出します。
AM6:55 獅子岳山頂にやってきました。
なんとかCTに近い時間で歩いて来れました。
稜線に近い部分は西からの風が強かったので、写真だけ撮ったらそのまますぐに東側になる登山道に逃げ込みました。
出発から時間が発っているので朝食にしたいのですが、この雨では・・・
息子も気力が無くなってるのか、おなかが空いていないと言います。
しかしこの後一ノ越までも3時間ほどあるので、雨の止んだ隙に少し朝食をとる事にしました。
なんだかんだで少しでも食べると、体力が帰ってくるのがわかります。
人の体って凄い。
再びガスの中下り続けると、やがて道は再び登り始めました。
そして写真のように、ぼんやりとがった岩。
不気味です。
これが鬼岳の尾根かな?
鬼岳は東面側に迂回するはずです。
なんとなくの感覚と地形から、地図を見て自分の位置を把握しようと努力しています。
ありがたいのは風下側なので強い風からは逃れると言う事ですね。
でもこの後龍王岳は西面を回るので風に吹きつけられるはずです。
それまでに風が少しでも弱まってくれれば・・・
鬼岳東面はこんな雪渓も横切りました。アイゼンは要りません。
ステップが切ってあるので安心して歩けますが、朝一は氷って危ないかもですね。
この後、東面尾根を越えるとやがて道は下り始め、再び登りに入りはじめました。
風も当り始めたので、今は龍王岳のトラバースに入り始めたのだと気付きました。
進行方向の右手に斜面が変わり始め、写真も撮らずに黙々と歩き続けます。
ココまでも辛くて辛くて。
息子も弱音を吐き始めました。
足取りも遅くなり、何度かしゃがんだり。
その度に小休止を取るのですが、シトシトと落ち続ける雨に長く休もうと言う気にならないのです。
流石にもうダメかな?と感じ、
「もう辞めようか。今日このまま室堂から下山する事も選択肢の一つだよ。ココまででも充分に歩いた、立派だよ。」
と息子に提案しました。
息子は黙ったまま前を見続けました。
葛藤しているのかな?
それ以上は何も聞きませんでした。
正直私も自問自答していました。
これって楽しいのか?
苦行以外の何物でもないし、昨日までの楽しさはどこに行ったのだろう。。。
一度室堂から降りて、天気が回復したら戻って来ても良いのでは無いか?
と。
予報より早い雨に振り回されているのがなんだか悔しいです。
自然を相手にしている事を改めて思い知らされました。
絶対の計画なんて存在しない、自分の慢心が祟ります。
つらい。
龍王岳の横を通過するまではココも結構な坂をグイグイと上げていく感じでした。
本日2度目の急登・・・
悶々としながらただひたすら歩いていると・・・
急に道はなだらかになり、見たことのある建造物が視界に入りました。
コレは浄土山の南峰!
去年のGWにソリ遊びに来たところです。
やっと分かる場所に来た!
息子も知っている場所にたどり着いたのが嬉しかったのか、急にテンションが上がり始めました。
思わず浄土山分岐の道標で記念写真です。
そして息子に聞きます。
「このまま帰るなら、まっすぐ進んで室堂に行く。
まだ歩く気があるなら、一ノ越に降りる。
ここが分岐点だよ、どうする?」
選択肢を迫りました。
「お父さん、僕は辞め無いよ。
歩き続ければゴールまで行けるんでしょ?
僕、行くよ。」
よく言った。
「よし、一ノ越に降りよう。」
そう言って、足早に一ノ越の山荘を目指しました。
尾根を下り始めると風も当らなくなり、立山を周遊する人にも多くすれ違うようになってきました。
人が増えた事や知っている場所に来た事で安心感が出たのか、息子も急におしゃべりになってきました。
分かりやすい人(笑
20分ほど尾根を降りると・・・
ガスの中に石垣の要塞が現れました。
うぉ、この石垣、こんなに高かったんだ。
よく考えれば立山は雪のある時しか来た事が無いので知りませんでした。
GWはこの石垣はすっぽり埋まっていたもので。
AM9:25 一ノ越山荘に到着しました。
何気で、五色ヶ原からのCT5時間半ほどの所を、4時間半ほどでやってきました。
あれだけ足取りも重かったのに、なんだか速いジャマイカ。
しかし、山荘の前は流石に乗越。
室堂側から強烈な風が吹きぬけて行きます。
寒いのでちゃっちゃと山荘に入り、少し早いお昼を食べながら作戦を練り直します。
山荘の中は人でごったがえしていました。
流石に雄山、色々な人が居ます。
Gパンに100均の合羽を着込んでいる人や、傘をさして歩いてくる人。
みんなビタビタです。
ただ、みな口々に「天気予報とちがーう」
と言ってました。やっぱりそうなんですね。
ですがこの時携帯で時間天気予報を見ると、雨マークが派手に出ていました。
昨日と違うな~。
さらに困ったのは12時ごろには落雷注意報も出ていました。
まいった。
さて、どうするか。
外は風が強いです。
まず考えられる選択肢は2つ。
①このまま一ノ越山荘に泊まり、明日強い雨の中剣沢に移動する。
②風雨は強いけど明日はもっと強いので、このまま剣沢まで一気に行く。
息子は迷わず②番を選びました。
よしよし、行こうね。
さらに選択肢を迫ります。
①ここから300m上げて雄山を登り後は稜線を歩いて別山を越えて剣沢に入る。
②立山縦走を諦めてここから450m下げ、雷鳥沢のキャンプ場から雷鳥坂を500m登り返して剣沢に入る。
1番は高低差は少ないでしょうが、風雨に晒されます。
2番は風雨には晒されませんが、450m下げてからの500m登り返しは今までで一番の急登です。
息子は再び迷わず②番を選びました。
よしよし、安全だね。
・・・っておい!
②番かい!
息子に何度も聞き直しました。
立山歩かないの?富士の折立行かないの?真砂岳、別山行かないの?
超慎重派の息子曰く
「稜線はきっと風が寒いから行かない。雷怖いし。僕、登りが強いから雷鳥坂の登りは行ける気がする。」
ショックでした。
ここまで稜線を歩く事にこだわって辿ったルートなのに。
選択肢を与えたものの、息子はきっと1番を選択すると思ったのに・・・
雨が憎いですよ、ホントに。
ずっと地図を眺めていた息子。
立山も三度目なので、なんとなく通るルートのイメージが出来ているらしかったです。
選択肢を与えて選ばせた以上、私はそれに従います。
ルートが決まったら、後は体を休めて暖めます。
ここでお湯は沸かせないので、売店でコーヒーを買って。
ホっと体が温まります。
その時息子が売店で何か目を輝かせていました。
「お父さん、僕コレが欲しい。」
息子のアツい視線の先には堂々と
”剱岳トランプ¥1300”
の文字。
欲しいの?コレ。
いや辞めようよ、きっと剱に近い小屋でも売ってる、そっちで買おう。
と、適当にその場を流しました。
さて小屋に入って1時間、程よく体も暖まったので出発する事にします。
私のお腹の中で乾かした息子の手袋も、少し渇き気味になってきましたので息子に返します。
そしてズブ濡れになったスペアの手袋を絞ってまた私のお腹の中に・・・
ドラえもんか?と息子にバレ無いように自分に突っ込んでおきました。
そして準備をして小屋を出ますが、その前に電話です。
「あー、剣澤小屋さんですか?
今夜、大人1人と小学生1人、予約できますか?
あ、そうですか、空いてますか。
夕食は要りませんが朝食付きでお願いしまーす。」
この雨の中テントを張る気力が、私にはもうありませんでした。
心折れて今夜は小屋泊まりを選択しました。
さらに翌日停滞する気満々です。
息子、横で目をキラキラさせています。
ちっくしょー!
なんだろう、この敗北感・・・
AM10:30一ノ越山荘を出発しました。
雨風強くても多くの観光客で賑わう室堂までの綺麗な石畳の道。
みんな凄いな~、元気だな~。
「こんにちは~」「頑張ってさい~♪」
と皆さん礼儀正しい。
アルプス深部で出会う、寡黙な山男達よりよっぽど礼儀正しいですよ。
嬉しくなってしまいました。
みんな、頑張ろう!
少し道を降りたところで、脇道に反れます。
一気に立山をトラバースして雷鳥沢のキャンプ場に真っ直ぐ下る道へ入りました。
急に人の気配は消え、静かな山歩きに変わりました。
高度計もギュンギュン数値を下げていきます。
ちなみに、一ノ越山荘は2700mです。
たったの300m雄山まで上げれば稜線なのに・・・
こっちは2250mほどまで450mは下げます。
キャンプ場までのCTは1時間です。
人の居ない静けさの登山道は少し寂しく感じました。
風は強くないものの、シトシトと雨は降り続けます。
ガスの中先の見えないお花畑の中を歩き続けます。
なんだかこの中を永遠にさまよう事になるんじゃないかと錯覚したり。
実際ここまですれ違った人は3人のパーティ1組だけでした。
賽の河原です。
もう、名前がね・・・
そんな感じですよね。
やがて視界にキャンプ場が見えたときには安堵しました。
良かった、人が居る。
一瞬でも、永遠にこのお花畑を彷徨うんじゃないかと錯覚した時は少し怖かったです。
さて、雷鳥沢のキャンプ場までCTは1時間なのに・・・
時間は12時。
1時間半もかかってるじゃないか~。
息子、やっぱり下りは足が遅いです。
まぁ、450mも下げてきましたからね。
これからたったの500m上げて250m下げるだけですよ。
あっはっは♪
・・・もう笑いしか出ません。
さて、休憩もろくにせずにこれから別山乗越、剱御前小屋を目指します。
本日三度目、今まで一番の高度差急登500m。
CT1時間50分。
嬉しくて涙しか出ません、と言う事にしておいてください。
もうここからは隊長を先頭についていきます。
今日あたり、息子の荷物は6kgほどまで落ちているはず。
こちらも水が減っているので23~4kgほどでしょうか。
つらい、ゆっくりと言う言葉を口にしたら息子に負けているような気がしたので、何も言わずに息子についていきます。
心拍数は激しく上がり、呼吸が激しくなっていきます。
雷鳥坂は序盤から斜度のある急登。
一集団、二集団とドンドン追い越し、息子のペースは全く落ちません。
負けるもんか!!
まわりから見たら相当変なオッサンだったと思います。
ゼーゼー呼吸しながら、ガシガシと高度を上げ続けて、前の息子を睨みつけている訳です。
そんな息子は軽く鼻歌交じり。
今考えれば怖いですよね。
一度も休む事無くしばらく登った時、息子が目の前でピタンと足を止めました。
思わずこちらも足が止まりました。
うぉー!止まるなぁ~!
一度動きを止めてしまった足がもう上がらないのが良く分かりました。
時計を見ると下からピッタリ1時間。
息子、こちらを振り返る事も無く・・・
「お父さん、建物が見える・・・」
ガスの中、上のほうにボーっと何か建造物が見えます。
ん?ここのCTは1時間50分だから、まだ半分ちょっとだよね。
まだ小屋は見える訳が無い。。。
あれ、なんだろう?
ようやく動いた足を持ち上げつつ、そこから10分。
剱御前小屋ですよ。。。
CT1時間50分の所、1時間10分で登ってきやがった・・・
速いよ~。
私の足がガクブルになって、立っていると生まれたての小鹿のようにプルプルしているのが良く分かりました。
もちろん息子には言いませんが。
しかし息子、やるな。
でも今日はその前に自分を褒めてあげたい。。。
息子に負けなかったです。
いや、勝ってもいないかな。
でも負けてなければ良いです。
しかしここから今日の剣沢小屋まではまた250mほど下げます。
乗越はさすがに風の通り道。
急に体温が奪われて行く感じがしたので、そのまま1分も休まずに剣沢に行く事にしました。
下りは流石に息子の足も遅く、今度は私が前です。
分岐が多く迷いそうでしたが、しばらく歩くとガスの中にうっすらとテン場が見えてきました。
あぁ、剣沢が見える。
さらに降りるとはっきりとテントの華が見えてきました。
息子がボソッと一言。
「お姉ちゃん達、居るかなぁ?」
・・・?
忘れてた。
そうだ、今日は13日。
予定通りなら昨年白峰三山でお会いした山ガールのお二方がここに居るはずなんです。
お恥ずかしい、色々あり過ぎてすっかり忘れていました。
息子、良く覚えていたな~。
と言うか、だから今日中に剣沢に入りたかったし、ここに来たかったんだな?
テン場を通る時、息子はキョロキョロしています。
「どこだろう?テント、青色だったよね?」
うーん、よく覚えていない・・・
探したそうな息子でしたが、私はそれどころではありません。
疲弊していたのと、お腹の手袋が服の湿度を上げてかなり中身もしっとりしていたんです。
速く小屋に着きたくて息子にそちらを優先するようにお願いしました。
さらに一段下げると、要塞に囲まれた小屋が見えました。
あぁ、ようやく着いた。
14:30 小屋に着いたとき、雨は上がっていました。
外で一呼吸置いて、中に入ります。
写真を撮りたかったのですが、防水では無いカメラに水が入ったらしく、液晶画面が写らなくなってしまってました。
壊れちゃったかな?この写真は携帯で撮りました。
小屋で受付をすると、剣岳までのルートの注意事項、子連れは危険だという注意事項、沢山指摘されました。
もちろん事故を無くす為に小屋の方の忠告はありがたいものです。
真摯に受け止める事にします。
部屋に案内されて服から合羽から、しっとりしているものは全部乾燥室に押し込みます。
ザックは廊下の棚に置くのですが、でかすぎて棚に入りませんでした。
小屋の方も見かねて、
「畳が汚れなければ、お部屋の方に入れていただいていいですよ~。」
と、ありがたかったです。
とりあえず息子と二人分のスペースに荷物を広げ、整頓します。
色々やっていると息子が一言。
「ねぇ、お姉ちゃん達に連絡取れないの?僕、会いたいよ。」
と言うので仕方なく小屋の外にでてFBのメッセンジャーで連絡を取って見る事にしました。
電波は外が安定していました。
とりあえずメッセを送ってから部屋にもどって荷物の整理。
乾かしては収納したり、なんだり。
「お父さん、返事来た?まだ?」
と息子があまりにもしつこいので
「わかった、そこまで言うならテン場まで行っておいでよ。自分で探せるんじゃない?」
と言うと、
「わかった!」
と言って息子は乾燥中の靴を履いて外に飛び出して行ってしまいました。
息子が飛び出して程なくして、こちらも荷物の整理が終わり、後は乾燥待ちになりました。
ふと不安になりました。
まぁ、息子の事だからこの距離の往復は問題ないだろうし、1人でも大丈夫だろうな~。
と思い、小屋の外に出てメッセの確認をすると・・・
「ごめんなさい、早く下山してしまったんです」
と言うような内容が返ってきました。
あ・・・
息子、1人でテン場を探しまくってるんじゃないだろうか。
ちょっと不憫に思ったその時、再び雨が降り始めました。
しかも結構強く。
しまった、息子の合羽、乾燥室なんですが。
慌てて部屋に戻り自分の合羽と折りたたみ傘を用意して外に出ようとすると、息を切らした息子が半濡れで帰ってきました。
「お姉ちゃん達、居なかったよ。
僕ね、一番上のテントまで見に行ったの。
そしたら雨が降ってきてね、急いで戻ってきたの。」
黙って息子をキュッと抱きしめました。
よっぽど会いたかったんだね。
頑張った努力は、いつか報われるよ。
返事が返ってきた事や、山を歩いていればまたいつか会えるよ、と。
息子に伝えました。
再び濡れたものを乾燥室に押し込んで・・・
なんと、剣澤の小屋にはシャワーがついているのです!
しかも今日は6日目、お着替えの日です。
9日間歩く事を想定して、着替えは2回分持ってきていました。
3日着たら着替えて、3日着たら着替えての予定でした。
石鹸は使えなくてもしっかり体を擦って6日分の汗を流し、新しい服に着替える。
きんもち良い~♪
剣沢小屋、天国ですよ。
シャワー後に食堂に行き、小屋の夕食時間外は自炊可でしたのでバーナーを使って夕食です。
まだ16時ですが。
もうこの時間サイクルが体に染み込んでいる訳です。
お腹いっぱいになって部屋に戻り、乾いた服からまた片付けたり。
やがて放送がかかり小屋の夕食が始まった頃、談話室には誰も居なくなったので貸切となりました。
そこで息子は日記を広げて書き始めました。
私は明日の予定を考えます。
多分明日は雨。
予定通り今日はムリをしてきたので、停滞です。
息子に「この小屋好き?」
と聞くと、「大好き」
と言うので、小屋番さんに明日も泊まれるかどうか聞いてみました。
ですが、残念な事に予約でいっぱいで泊まれないと。
明日キャンセルが出れば泊まれますが・・・
と言う常態です。
向かいの剣山荘さんでしたら収容人数も多いので、あちらはいかがですか?
と言われたので、すぐに剣山荘に電話して翌日の予約をとりました。
後から知ったのですが、剣沢小屋は規定人数以上の客は絶対泊めず、予約者優先でゆったりと泊まってもらうと言う方針のようです。
収容人数も多くなく、とてもアットホームな暖かい小屋でした。
向かいの剣山荘は収容人数も多く、来るもの拒まずでどんどん受け入れると言うお話です。
でも、どちらも正しい姿です。
反する経営方針の小屋が近くにあるからこそ、うまく行っているのでしょうね。
さて、明日は隣の剣山荘まで行くだけの予定になりました、ゆっくりしましょう。
談話室で日記を書き終わった息子が、遊び道具を探していますが。。。
面白いものを見つけました。
3D四目並べです。
三次元で四目並べをするので、とても頭を使います。
談話室で知り合ったお兄さんを相手に、息子は4勝2敗と良い勝負をしてました。
私は息子に3勝1敗です(^^;
お兄さん、息子と遊んで頂きましてありがとうございました。
またどこかの山で!
久しぶりに20時まで起きてました。
明日はのんびりで良いしね♪
その後歯磨きをして布団に包まります。
布団、気持ちい~♪
小屋って、天国だ。。。
久しぶりの布団があまりに気持ちよく、多分息子も私も布団に入って5秒で眠りに落ちました。
明日は・・・
ゆっくり停滞だ!
7日目へ続く。
バラバラバラバラ・・・
深夜、何かが叩きつける音で目が覚めました。
一瞬頭の中に「?」が浮かびましたがすぐにそれが雨音だと気付き、起き上がりました。
通り雨かな・・・
と思いたかったです。
しばらくウトウトしていたのですが、雨、風共に強くなり、テントが揺さぶられてさらに激しく雨が叩きつけてきます。
この雨の量はまずいな・・・
あえて砂地にテントを張ってしまったので、水溜りが出来たら浸水してしまうかも。
心配してそっと入口をあけて見ます。
すると、外に土間を作った事や風上側に置石で囲いをしていた事により、超浸透性の砂地の路面はフライシートの内側、テント部分だけサラサラに乾いていました。
良かった、浸水の心配はまったく無いです。
暇つぶしに石組みしておいて良かった。
ふと時計を見るとAM1:00
入口を閉めて横になりますが、色々な事を考えて眠れませんでした。
昨日の天気予報と大分違うじゃないか~。
完璧な計画が崩されていく・・・
通り雨でありますように。
雨が止みますように。。。
AM2時ごろ、少し雨が弱まったので、そのまま止んでしまう事を期待しました。
外に出てトイレに行き、テントに戻りました。
そのままお湯を沸かしてコーヒーを飲み、朝食の準備をし始めた頃・・・
再び雨が降り始めました。
しかも結構強い・・・
こりゃダメだな。
一応3時発の予定でいたので、息子を起こして出発の準備をします。
合羽も着込んでテント以外のものは全てザックに収納。
ザックカバーもかけていつでも外に出られるようにしたのですが、3時を回っても雨は止みません。
仕方が無いので横になったまま機会をうかがいました。
周りのテントからも「コレはダメだな~」と言う声が聞こえてきました。
待っている間に息子も再び眠りに入ったので、起こす事もしませんでした。
再びシェラフとマットを一つだけ出し、息子の下に敷いてシェラフをかけました。
待つこと1時間半、ヘッデンも要らないくらい明るくなった4:30頃。
急に雨が止みました。
これはテント撤収のチャンスです。
息子に声をかけます。
「行こう、チャンスだ。」
シェラフとマットを仕舞って、慌ててテントの外に出ます。
瞬間靴を履いたらそのまま手際よくパタパタとテントを収納。
息子も慣れてきているので、何も言わなくても手順どおりに手伝ってくれます。
バタバタ私達が動き出した音で周りのテントからもモソモソと人が出てきて、撤収の準備にかかりはじめました。
しかし私達はパッキングもほぼ出来ているので、さっとテントを仕舞ってほぼ一番にテン場を後にしました。
AM4:50、出発です。
雨は止んでいるので、ガスの中ですがザラ峠までは快適に歩けました。
息子も朝から動いたおかげか、元気におしゃべりが止まりません。
ちゃっちゃと歩いて5:20ザラ峠まで降りてきました。
かつて佐々成正が徳川家に助けを求めて冬に抜けた峠。
歴史を感じます。
そして観測隊が暴風雨にやられた場所ですね。
もちろんこの時は知りませんでしたが。
さてここから一気に獅子岳まで300mほど高度を上げます。
今はガスで見えませんが、昨日双眼鏡で見てなんとなく道がどうなってるかは想像がついています。
登りに強い息子、行きましょう!
しかし登り始めてすぐに、時折強い風に雨が混じるようになって来ました。
やはり先ほどテントを撤収して正解でしたね。
タイミングを誤ると出発できませんでした。
歩いている分には合羽のおかげで雨には耐えられます。
そして、想像通りのザレた急登はなかなかに私達の進行を阻むのですが、もうこんな急登は慣れました。
負けるもんか!
しかし吹き付ける風に雨も混じり、体は冷えていきます。
体力が持ってかれる・・・
息子もさっきまでのおしゃべりはパタリと止まり、黙々と歩き続けています。
辛いんだろうな・・・
やがて登山道の右側に沢状の崩落地が見えてきました。
昨日遠くから見た地形が頭によぎります。
結構高度を上げましたね、間もなく梯子が出るはずです。
と思ったらすぐに梯子です。
滑ると危ないので、先に息子を登らせます。
梯子を登ってしばらくすると、稜線の東側に登山道が回りこみました。
あぁ、急登が終わったんだなとすぐに分かりました。
風下側に回ったことにより強い風は当たらなくなり、急に体温が上がり始めます。
合羽の一部を開放したりして、中の温度が上がらないように調整します。
もちろん息子にも指示を出します。
AM6:55 獅子岳山頂にやってきました。
なんとかCTに近い時間で歩いて来れました。
稜線に近い部分は西からの風が強かったので、写真だけ撮ったらそのまますぐに東側になる登山道に逃げ込みました。
出発から時間が発っているので朝食にしたいのですが、この雨では・・・
息子も気力が無くなってるのか、おなかが空いていないと言います。
しかしこの後一ノ越までも3時間ほどあるので、雨の止んだ隙に少し朝食をとる事にしました。
なんだかんだで少しでも食べると、体力が帰ってくるのがわかります。
人の体って凄い。
再びガスの中下り続けると、やがて道は再び登り始めました。
そして写真のように、ぼんやりとがった岩。
不気味です。
これが鬼岳の尾根かな?
鬼岳は東面側に迂回するはずです。
なんとなくの感覚と地形から、地図を見て自分の位置を把握しようと努力しています。
ありがたいのは風下側なので強い風からは逃れると言う事ですね。
でもこの後龍王岳は西面を回るので風に吹きつけられるはずです。
それまでに風が少しでも弱まってくれれば・・・
鬼岳東面はこんな雪渓も横切りました。アイゼンは要りません。
ステップが切ってあるので安心して歩けますが、朝一は氷って危ないかもですね。
この後、東面尾根を越えるとやがて道は下り始め、再び登りに入りはじめました。
風も当り始めたので、今は龍王岳のトラバースに入り始めたのだと気付きました。
進行方向の右手に斜面が変わり始め、写真も撮らずに黙々と歩き続けます。
ココまでも辛くて辛くて。
息子も弱音を吐き始めました。
足取りも遅くなり、何度かしゃがんだり。
その度に小休止を取るのですが、シトシトと落ち続ける雨に長く休もうと言う気にならないのです。
流石にもうダメかな?と感じ、
「もう辞めようか。今日このまま室堂から下山する事も選択肢の一つだよ。ココまででも充分に歩いた、立派だよ。」
と息子に提案しました。
息子は黙ったまま前を見続けました。
葛藤しているのかな?
それ以上は何も聞きませんでした。
正直私も自問自答していました。
これって楽しいのか?
苦行以外の何物でもないし、昨日までの楽しさはどこに行ったのだろう。。。
一度室堂から降りて、天気が回復したら戻って来ても良いのでは無いか?
と。
予報より早い雨に振り回されているのがなんだか悔しいです。
自然を相手にしている事を改めて思い知らされました。
絶対の計画なんて存在しない、自分の慢心が祟ります。
つらい。
龍王岳の横を通過するまではココも結構な坂をグイグイと上げていく感じでした。
本日2度目の急登・・・
悶々としながらただひたすら歩いていると・・・
急に道はなだらかになり、見たことのある建造物が視界に入りました。
コレは浄土山の南峰!
去年のGWにソリ遊びに来たところです。
やっと分かる場所に来た!
息子も知っている場所にたどり着いたのが嬉しかったのか、急にテンションが上がり始めました。
思わず浄土山分岐の道標で記念写真です。
そして息子に聞きます。
「このまま帰るなら、まっすぐ進んで室堂に行く。
まだ歩く気があるなら、一ノ越に降りる。
ここが分岐点だよ、どうする?」
選択肢を迫りました。
「お父さん、僕は辞め無いよ。
歩き続ければゴールまで行けるんでしょ?
僕、行くよ。」
よく言った。
「よし、一ノ越に降りよう。」
そう言って、足早に一ノ越の山荘を目指しました。
尾根を下り始めると風も当らなくなり、立山を周遊する人にも多くすれ違うようになってきました。
人が増えた事や知っている場所に来た事で安心感が出たのか、息子も急におしゃべりになってきました。
分かりやすい人(笑
20分ほど尾根を降りると・・・
ガスの中に石垣の要塞が現れました。
うぉ、この石垣、こんなに高かったんだ。
よく考えれば立山は雪のある時しか来た事が無いので知りませんでした。
GWはこの石垣はすっぽり埋まっていたもので。
AM9:25 一ノ越山荘に到着しました。
何気で、五色ヶ原からのCT5時間半ほどの所を、4時間半ほどでやってきました。
あれだけ足取りも重かったのに、なんだか速いジャマイカ。
しかし、山荘の前は流石に乗越。
室堂側から強烈な風が吹きぬけて行きます。
寒いのでちゃっちゃと山荘に入り、少し早いお昼を食べながら作戦を練り直します。
山荘の中は人でごったがえしていました。
流石に雄山、色々な人が居ます。
Gパンに100均の合羽を着込んでいる人や、傘をさして歩いてくる人。
みんなビタビタです。
ただ、みな口々に「天気予報とちがーう」
と言ってました。やっぱりそうなんですね。
ですがこの時携帯で時間天気予報を見ると、雨マークが派手に出ていました。
昨日と違うな~。
さらに困ったのは12時ごろには落雷注意報も出ていました。
まいった。
さて、どうするか。
外は風が強いです。
まず考えられる選択肢は2つ。
①このまま一ノ越山荘に泊まり、明日強い雨の中剣沢に移動する。
②風雨は強いけど明日はもっと強いので、このまま剣沢まで一気に行く。
息子は迷わず②番を選びました。
よしよし、行こうね。
さらに選択肢を迫ります。
①ここから300m上げて雄山を登り後は稜線を歩いて別山を越えて剣沢に入る。
②立山縦走を諦めてここから450m下げ、雷鳥沢のキャンプ場から雷鳥坂を500m登り返して剣沢に入る。
1番は高低差は少ないでしょうが、風雨に晒されます。
2番は風雨には晒されませんが、450m下げてからの500m登り返しは今までで一番の急登です。
息子は再び迷わず②番を選びました。
よしよし、安全だね。
・・・っておい!
②番かい!
息子に何度も聞き直しました。
立山歩かないの?富士の折立行かないの?真砂岳、別山行かないの?
超慎重派の息子曰く
「稜線はきっと風が寒いから行かない。雷怖いし。僕、登りが強いから雷鳥坂の登りは行ける気がする。」
ショックでした。
ここまで稜線を歩く事にこだわって辿ったルートなのに。
選択肢を与えたものの、息子はきっと1番を選択すると思ったのに・・・
雨が憎いですよ、ホントに。
ずっと地図を眺めていた息子。
立山も三度目なので、なんとなく通るルートのイメージが出来ているらしかったです。
選択肢を与えて選ばせた以上、私はそれに従います。
ルートが決まったら、後は体を休めて暖めます。
ここでお湯は沸かせないので、売店でコーヒーを買って。
ホっと体が温まります。
その時息子が売店で何か目を輝かせていました。
「お父さん、僕コレが欲しい。」
息子のアツい視線の先には堂々と
”剱岳トランプ¥1300”
の文字。
欲しいの?コレ。
いや辞めようよ、きっと剱に近い小屋でも売ってる、そっちで買おう。
と、適当にその場を流しました。
さて小屋に入って1時間、程よく体も暖まったので出発する事にします。
私のお腹の中で乾かした息子の手袋も、少し渇き気味になってきましたので息子に返します。
そしてズブ濡れになったスペアの手袋を絞ってまた私のお腹の中に・・・
ドラえもんか?と息子にバレ無いように自分に突っ込んでおきました。
そして準備をして小屋を出ますが、その前に電話です。
「あー、剣澤小屋さんですか?
今夜、大人1人と小学生1人、予約できますか?
あ、そうですか、空いてますか。
夕食は要りませんが朝食付きでお願いしまーす。」
この雨の中テントを張る気力が、私にはもうありませんでした。
心折れて今夜は小屋泊まりを選択しました。
さらに翌日停滞する気満々です。
息子、横で目をキラキラさせています。
ちっくしょー!
なんだろう、この敗北感・・・
AM10:30一ノ越山荘を出発しました。
雨風強くても多くの観光客で賑わう室堂までの綺麗な石畳の道。
みんな凄いな~、元気だな~。
「こんにちは~」「頑張ってさい~♪」
と皆さん礼儀正しい。
アルプス深部で出会う、寡黙な山男達よりよっぽど礼儀正しいですよ。
嬉しくなってしまいました。
みんな、頑張ろう!
少し道を降りたところで、脇道に反れます。
一気に立山をトラバースして雷鳥沢のキャンプ場に真っ直ぐ下る道へ入りました。
急に人の気配は消え、静かな山歩きに変わりました。
高度計もギュンギュン数値を下げていきます。
ちなみに、一ノ越山荘は2700mです。
たったの300m雄山まで上げれば稜線なのに・・・
こっちは2250mほどまで450mは下げます。
キャンプ場までのCTは1時間です。
人の居ない静けさの登山道は少し寂しく感じました。
風は強くないものの、シトシトと雨は降り続けます。
ガスの中先の見えないお花畑の中を歩き続けます。
なんだかこの中を永遠にさまよう事になるんじゃないかと錯覚したり。
実際ここまですれ違った人は3人のパーティ1組だけでした。
賽の河原です。
もう、名前がね・・・
そんな感じですよね。
やがて視界にキャンプ場が見えたときには安堵しました。
良かった、人が居る。
一瞬でも、永遠にこのお花畑を彷徨うんじゃないかと錯覚した時は少し怖かったです。
さて、雷鳥沢のキャンプ場までCTは1時間なのに・・・
時間は12時。
1時間半もかかってるじゃないか~。
息子、やっぱり下りは足が遅いです。
まぁ、450mも下げてきましたからね。
これからたったの500m上げて250m下げるだけですよ。
あっはっは♪
・・・もう笑いしか出ません。
さて、休憩もろくにせずにこれから別山乗越、剱御前小屋を目指します。
本日三度目、今まで一番の高度差急登500m。
CT1時間50分。
嬉しくて涙しか出ません、と言う事にしておいてください。
もうここからは隊長を先頭についていきます。
今日あたり、息子の荷物は6kgほどまで落ちているはず。
こちらも水が減っているので23~4kgほどでしょうか。
つらい、ゆっくりと言う言葉を口にしたら息子に負けているような気がしたので、何も言わずに息子についていきます。
心拍数は激しく上がり、呼吸が激しくなっていきます。
雷鳥坂は序盤から斜度のある急登。
一集団、二集団とドンドン追い越し、息子のペースは全く落ちません。
負けるもんか!!
まわりから見たら相当変なオッサンだったと思います。
ゼーゼー呼吸しながら、ガシガシと高度を上げ続けて、前の息子を睨みつけている訳です。
そんな息子は軽く鼻歌交じり。
今考えれば怖いですよね。
一度も休む事無くしばらく登った時、息子が目の前でピタンと足を止めました。
思わずこちらも足が止まりました。
うぉー!止まるなぁ~!
一度動きを止めてしまった足がもう上がらないのが良く分かりました。
時計を見ると下からピッタリ1時間。
息子、こちらを振り返る事も無く・・・
「お父さん、建物が見える・・・」
ガスの中、上のほうにボーっと何か建造物が見えます。
ん?ここのCTは1時間50分だから、まだ半分ちょっとだよね。
まだ小屋は見える訳が無い。。。
あれ、なんだろう?
ようやく動いた足を持ち上げつつ、そこから10分。
剱御前小屋ですよ。。。
CT1時間50分の所、1時間10分で登ってきやがった・・・
速いよ~。
私の足がガクブルになって、立っていると生まれたての小鹿のようにプルプルしているのが良く分かりました。
もちろん息子には言いませんが。
しかし息子、やるな。
でも今日はその前に自分を褒めてあげたい。。。
息子に負けなかったです。
いや、勝ってもいないかな。
でも負けてなければ良いです。
しかしここから今日の剣沢小屋まではまた250mほど下げます。
乗越はさすがに風の通り道。
急に体温が奪われて行く感じがしたので、そのまま1分も休まずに剣沢に行く事にしました。
下りは流石に息子の足も遅く、今度は私が前です。
分岐が多く迷いそうでしたが、しばらく歩くとガスの中にうっすらとテン場が見えてきました。
あぁ、剣沢が見える。
さらに降りるとはっきりとテントの華が見えてきました。
息子がボソッと一言。
「お姉ちゃん達、居るかなぁ?」
・・・?
忘れてた。
そうだ、今日は13日。
予定通りなら昨年白峰三山でお会いした山ガールのお二方がここに居るはずなんです。
お恥ずかしい、色々あり過ぎてすっかり忘れていました。
息子、良く覚えていたな~。
と言うか、だから今日中に剣沢に入りたかったし、ここに来たかったんだな?
テン場を通る時、息子はキョロキョロしています。
「どこだろう?テント、青色だったよね?」
うーん、よく覚えていない・・・
探したそうな息子でしたが、私はそれどころではありません。
疲弊していたのと、お腹の手袋が服の湿度を上げてかなり中身もしっとりしていたんです。
速く小屋に着きたくて息子にそちらを優先するようにお願いしました。
さらに一段下げると、要塞に囲まれた小屋が見えました。
あぁ、ようやく着いた。
14:30 小屋に着いたとき、雨は上がっていました。
外で一呼吸置いて、中に入ります。
写真を撮りたかったのですが、防水では無いカメラに水が入ったらしく、液晶画面が写らなくなってしまってました。
壊れちゃったかな?この写真は携帯で撮りました。
小屋で受付をすると、剣岳までのルートの注意事項、子連れは危険だという注意事項、沢山指摘されました。
もちろん事故を無くす為に小屋の方の忠告はありがたいものです。
真摯に受け止める事にします。
部屋に案内されて服から合羽から、しっとりしているものは全部乾燥室に押し込みます。
ザックは廊下の棚に置くのですが、でかすぎて棚に入りませんでした。
小屋の方も見かねて、
「畳が汚れなければ、お部屋の方に入れていただいていいですよ~。」
と、ありがたかったです。
とりあえず息子と二人分のスペースに荷物を広げ、整頓します。
色々やっていると息子が一言。
「ねぇ、お姉ちゃん達に連絡取れないの?僕、会いたいよ。」
と言うので仕方なく小屋の外にでてFBのメッセンジャーで連絡を取って見る事にしました。
電波は外が安定していました。
とりあえずメッセを送ってから部屋にもどって荷物の整理。
乾かしては収納したり、なんだり。
「お父さん、返事来た?まだ?」
と息子があまりにもしつこいので
「わかった、そこまで言うならテン場まで行っておいでよ。自分で探せるんじゃない?」
と言うと、
「わかった!」
と言って息子は乾燥中の靴を履いて外に飛び出して行ってしまいました。
息子が飛び出して程なくして、こちらも荷物の整理が終わり、後は乾燥待ちになりました。
ふと不安になりました。
まぁ、息子の事だからこの距離の往復は問題ないだろうし、1人でも大丈夫だろうな~。
と思い、小屋の外に出てメッセの確認をすると・・・
「ごめんなさい、早く下山してしまったんです」
と言うような内容が返ってきました。
あ・・・
息子、1人でテン場を探しまくってるんじゃないだろうか。
ちょっと不憫に思ったその時、再び雨が降り始めました。
しかも結構強く。
しまった、息子の合羽、乾燥室なんですが。
慌てて部屋に戻り自分の合羽と折りたたみ傘を用意して外に出ようとすると、息を切らした息子が半濡れで帰ってきました。
「お姉ちゃん達、居なかったよ。
僕ね、一番上のテントまで見に行ったの。
そしたら雨が降ってきてね、急いで戻ってきたの。」
黙って息子をキュッと抱きしめました。
よっぽど会いたかったんだね。
頑張った努力は、いつか報われるよ。
返事が返ってきた事や、山を歩いていればまたいつか会えるよ、と。
息子に伝えました。
再び濡れたものを乾燥室に押し込んで・・・
なんと、剣澤の小屋にはシャワーがついているのです!
しかも今日は6日目、お着替えの日です。
9日間歩く事を想定して、着替えは2回分持ってきていました。
3日着たら着替えて、3日着たら着替えての予定でした。
石鹸は使えなくてもしっかり体を擦って6日分の汗を流し、新しい服に着替える。
きんもち良い~♪
剣沢小屋、天国ですよ。
シャワー後に食堂に行き、小屋の夕食時間外は自炊可でしたのでバーナーを使って夕食です。
まだ16時ですが。
もうこの時間サイクルが体に染み込んでいる訳です。
お腹いっぱいになって部屋に戻り、乾いた服からまた片付けたり。
やがて放送がかかり小屋の夕食が始まった頃、談話室には誰も居なくなったので貸切となりました。
そこで息子は日記を広げて書き始めました。
私は明日の予定を考えます。
多分明日は雨。
予定通り今日はムリをしてきたので、停滞です。
息子に「この小屋好き?」
と聞くと、「大好き」
と言うので、小屋番さんに明日も泊まれるかどうか聞いてみました。
ですが、残念な事に予約でいっぱいで泊まれないと。
明日キャンセルが出れば泊まれますが・・・
と言う常態です。
向かいの剣山荘さんでしたら収容人数も多いので、あちらはいかがですか?
と言われたので、すぐに剣山荘に電話して翌日の予約をとりました。
後から知ったのですが、剣沢小屋は規定人数以上の客は絶対泊めず、予約者優先でゆったりと泊まってもらうと言う方針のようです。
収容人数も多くなく、とてもアットホームな暖かい小屋でした。
向かいの剣山荘は収容人数も多く、来るもの拒まずでどんどん受け入れると言うお話です。
でも、どちらも正しい姿です。
反する経営方針の小屋が近くにあるからこそ、うまく行っているのでしょうね。
さて、明日は隣の剣山荘まで行くだけの予定になりました、ゆっくりしましょう。
談話室で日記を書き終わった息子が、遊び道具を探していますが。。。
面白いものを見つけました。
3D四目並べです。
三次元で四目並べをするので、とても頭を使います。
談話室で知り合ったお兄さんを相手に、息子は4勝2敗と良い勝負をしてました。
私は息子に3勝1敗です(^^;
お兄さん、息子と遊んで頂きましてありがとうございました。
またどこかの山で!
久しぶりに20時まで起きてました。
明日はのんびりで良いしね♪
その後歯磨きをして布団に包まります。
布団、気持ちい~♪
小屋って、天国だ。。。
久しぶりの布団があまりに気持ちよく、多分息子も私も布団に入って5秒で眠りに落ちました。
明日は・・・
ゆっくり停滞だ!
7日目へ続く。
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